膠原病は治る病気ではありません。治るというよりは寛解するという表現をつかうことが多いです。治療したら完全に病気の原因が消えてなくなるわけではないからです。そのため、人生の中で症状が最小限になり支障なく日常生活が送れる期間が長ければ長いほど、病気を良好にコントロールできていると言えます。そのためには、その時の状況に応じて治療内容を変えていくことも必要になり、どんな治療をいつ始めるのか、メリットとデメリットをよく吟味して決定する必要があります。今回は治療方針の心得についてお伝えします。
看護師でも自分の治療方針の決定は葛藤の連続
諸外国と比較すると日本人は完璧主義でノーリスクを好む傾向にあると思います。先進国の中でコロナ対策が目を見張るほど長引いたのも納得です。しかし、あらゆる治療にはリスクがあり、どんな選択をするにせよ一定の覚悟は必要です。私は看護師としていろいろな症例を見聞きしますから、時々その情報が頭をおおきくもたげて免疫抑制剤を飲むことが怖くなる時があります。自分が生まれながらにしてもっている免疫力をわざと下げるなど、なんと無謀なことでしょう。でも、膠原病は自分の免疫が自分を攻撃しているわけですから、その攻撃力を弱めなければ早死にするのは見えています。太く短く生きるのか、細く長く生きるのか。こういった葛藤の大きい治療について、一生、何度も決定していくわけです。これが一番という方法はありませんが、私は皆さんに「人間の傾向」を知っておいてほしいと思います。そうすることで迷った時も、冷静に判断できるかもしれません。
治療方針を自己決定するために知っておくこと
人間は危険な情報に敏感に反応する
人間の脳は、命を守るために危険な情報に敏感に反応するようにできています。ニュースを見ると、殺人・窃盗・ルール違反など巻き込まれたくない事件が必ず報道されますよね。幸せな内容ばかりではニュースが成り立たないのでしょうか。
同じように、治療を選択するときもリスクに目がいくのは自然なことで、そのリスクを過大にとらえて治療から得られるベネフィットが小さく見えるかもしれません。脳の特徴を忘れずに、ネガティブ情報だけでなくポジティブ情報も意識的に調べてください。そしてちょっと冷静になったときに治療内容を選択してみてください。

時間割引率を考える
人間は目先のことが大事にみえて、将来起きることを過小評価しがちです。これを時間割引率と言います。積み立てNISAなど貯金がいい例で、月1万円の貯金をする人としない人、どのくらい違うでしょうか…。貯金する人は金利ゼロでも10年で120万円たまり、NISAの想定利回り3%だと139万円です。貯金しない人は目先のほしいものを1万円で購入したり気の向いたときに貯金したりするので、半分の60万円たまるか怪しいですね。この貯金しない人のように人間はたいてい目先の幸せが大好きなので、長期スパンで手に入る幸せは想像しにくい傾向があり、時間割引率が大きくなる傾向があるのです。
同じことが膠原病の治療決定にも当てはまると私は感じています。膠原病の治療は一生続く長い治療です、節目節目で命に関わる重要な決定をしているのですが、なんとなく今現在楽なことや気の向くことを優先して、将来の自分の時間や生活の質を失わないようにしましょう。

長い目で見たとき、将来の自分にとっていい選択ができますように。